木質廃棄物の有効活用:バイオマスエネルギーへの転換
近年、木質バイオマスが注目されています。その理由は、日本の豊富な森林資源を有効活用できる点にあります。
日本の森林面積は約2500万haで、国土の約66%に至るといわれていますが、その利用率は他のOECD諸国と比べて低く、成熟した森林が十分に活用されていない状況です。木質バイオマスの利用促進は、この未利用資源を再生可能エネルギーとして活用しさらに、適切な森林管理にも適切し、土砂災害の防止や生物多様性の保全といった森林の多面的機能の維持向上にも貢献すると期待されています。
また、木材の加工場や木材を利用している場の解体や改修においては廃材などの廃棄物が発生します。これらの処理には、燃料化などで再利用する場合とや焼却や埋立てなどの処理場合がありますがその処分には費用が必要となります。
しかし、この廃棄される木材や端材も適切な処理が施されれば有用なバイオマス資源となります。
このようにバイオマスエネルギーの利用は、期待される一方で導入には費用負担や課題もあります。特に費用においては、初期の設備費用が大きくかかることが懸念されますが、国や地域で様々な補助金も出ており、これらを活用しながら進めていくことも有効です。
ここでは、バイオマスエネルギーの利用に向けて、そのメリットや注意点、費用負担とコストメリットの事例を記載しています。
木質のバイオマスエネルギーへの変化が注目される理由
木質のバイオマスエネルギーが注目される主な理由には下記の点が挙げられます。
- CO2排出量の削減
木質バイオマスは、成長過程で大気中のCO2を吸収します。 燃焼放出される時にCO2は、吸収した量とほぼ同等であるため、大気中のCO2増加とならずにカーボンニュートラルな再生可能エネルギー源として機能します。そのため、”化石燃料の代わりに木材を利用することにより、二酸化炭素の排出の抑制が可能となり、地球温暖化防止に貢献”するということが示されています。(参照元:なぜ木質バイオマスを使うのか:林野庁 (maff.go.jp)) - 安定した電力供給
太陽光や風力発電と異なり、木質バイオマス発電はその供給において調整がしやすく、燃料さえ確保できれば安定した電力供給が可能です。これにより、電力系統の安定性向上に貢献します。 - 廃棄物のリサイクル
製材所や木材加工場から発生する廃材、建築廃材、剪定枝などの木質廃棄物を有効活用することで、廃棄物の削減とリサイクルを促進します。 - 地域資源の活用と地域活性化
地域の森林資源や木質廃棄物を活用することで、エネルギーの地産地消が可能となります。これにより、地域経済の活性化や新たな雇用創出につながる可能性があります。 - エネルギー自給率の向上
国内で調達可能な木質バイオマスを活用することで、エネルギー自給率の向上に貢献し、エネルギーセキュリティの強化につながります。
Contents
1.バイオマスエネルギーの概要
1.1 木質バイオマスとは
木質バイオマスとは、木材由来の生物資源のことを言います。 主に樹木の幹、枝、葉、樹皮などから構成され、エネルギー源として利用可能な有機物質です。化学的には、セルロース、ヘミセルロース、リグニンを主成分とし、これらが複雑に結合した構造を持っています。
「バイオマス」とは、生物資源(bio)の量(mass)を表す言葉であり、「再生可能な、生物由来の有機性資源(化石燃料は除く)」のことを呼びます。そのなかで、木材からなるバイオマスのことを「木質バイオマス」と呼びます。
木質バイオマスには、主に、樹木の伐採や造材のときに発生した枝、葉などの林地残材、製材工場などから発生する樹皮やのこ屑などのほか、住宅の解体材や街路樹の剪定枝などの種類があります。
1.2 木質バイオマスの種類と特徴
木質バイオマスは、その由来によって以下のように分類できます。
- 林地残材:森林管理や木材生産の過程で発生する枝葉や低質材
- 製材残材:製材所で発生するおがくずやバーク
- 建築廃材:建築物の解体や改修時に発生する木材
- 剪定枝:都市部の街路樹や公園の管理で発生する枝葉
これらは、含水率や密度、熱量などの特性が異なるため、利用目的に応じて適切な種類を選択することが重要です。
1.3 木質バイオマスのエネルギー利用:環境面でのメリット
木質バイオマスのエネルギー利用には、以下のような環境面でのメリットがあります。
- カーボンニュートラル:木材の成長過程で吸収したCO2と、燃焼放出するCO2がほぼ同量であるため、大気中のCO2増加につながらない。
- 再生可能エネルギー:適切な森林管理を行うことで、持続的に利用可能な資源である。
- 廃棄物の有効利用:林地残材や製材残材などの未利用資源を活用することで、廃棄物の削減につながる。
- 地域資源の活用:地域の森林資源を利用することで、エネルギーの地産地消が可能となり、地域経済の活性化にも最適です。
これらのメリットにより、木質バイオマスは環境負荷の低い持続可能なエネルギー源として注目されています。
2.木質バイオマスの活用システムについて
2.1 熱利用と発電の違い
木質バイオマスのエネルギー利用には、主に熱利用と発電の2つの方式があります。
熱利用
- 直接熱を利用(暖房、給湯、プロセス熱など)
- エネルギー変換効率が高い(80-90%程度)
- 比較的小規模な設備でも導入可能
発電利用:
- 熱エネルギーを電気エネルギーに変換
- エネルギー変換効率は比較的低い(20-30%程度)
- 大規模な設備が必要ですが、電力として広く供給可能
どちらの特性を相談した熱電併給(コージェネレーション)システムも存在し、総合的なエネルギー利用効率の向上が図られています。これらのシステムを正しく選択・導入することで、木質バイオマスの効率的な活用が可能となります。
参照元:木質バイオマスエネルギーとは | 一般社団法人日本木質バイオマスエネルギー協会 (jwba.or.jp)
2.2 木質バイオマスボイラーの仕組み
木質バイオマスボイラーは、木質燃料を燃焼させて熱エネルギーを生成する装置です。基本的な構造は以下の通りです:
- 燃料供給装置:木質チップやペレットを自動で炉内に供給
- 燃焼室:燃料が燃える空間
- 熱交換器:燃焼で発生した熱を水や蒸気に伝える
- 排気システム:燃焼ガスを浄化して排出
- 制御システム:燃焼効率を最適化するための自動制御
これらの要素が連携して動作し、効率的な熱エネルギー生成を実現します。
2.3 チップ化・ペレット化の方法
チップ化とペレット化は、木質バイオマスを効率的に利用するための重要な加工プロセスです。
チップ化:
- 原料の選択別:不純物を除去
- 破砕:チッパーやハンマーミルで正しいサイズに破砕
- 選択別:サイズや品質によって分類
ペレット化:
- 原料の乾燥:含水率を10~15%程度に調整
- 粉砕:微細な粉末状に加工
- 成型:高圧で圧縮し、円筒形のペレットに成形
- 冷却:ペレットを固化させる
これらのプロセスにより、扱いやすく、燃焼効率の高い燃料が生産されます。
特に、ボイラー投入時は木材の大きさや含水率が重要になり、各装置によって異なるため注意が必要です。
3. ボイラー導入時の検討事項
3.1 初期費用の概算
ボイラー本体、付帯設備、工事費内訳
・ボイラー本体:3,000〜4,000万円
・付帯設備(サイロ・建屋):2,000〜4,000万円
・工事費:2,000〜4,000万円
合計で、300kW規模のバイオマスボイラーの場合、7,000万円〜1億2,000万円程度となります。
規模による費用の違い
バイオマスボイラーの設備費は、規模が大きくなるほどkW当たりのコストが低減する傾向があります
例えば、300kWの場合、kW当たり23〜40万円程度ですが、大規模になるほど費用は小さくなります。
参照元:林野庁‗木質バイオマスボイラー導入・運用にかかわる実務テキスト
3.2 必要な許可と資格
大気汚染防止法関連の届出
- ボイラーの規模や燃料の種類によって、大気汚染防止法に基づくばい煙発生施設としての届出が必要な場合があります。
- 地方自治体の条例による規制にも注意が必要です。
ボイラー技師の構成要件
ボイラーの規模や蒸気圧力によって、ボイラー技術者の配置が必要となり、区分によってボイラー取扱作業主任者に必要な資格は異なります。
ボイラーの区分によりその取扱者には、以下の資格が必要となります。
- 簡易ボイラー 資格は不要
- 小型ボイラー 特別教育を受けた者
- ボイラー※ ボイラー技士免許者
これらの区分はボイラーの取扱い業務 | 一般社団法人 日本ボイラ協会 (jbanet.or.jp)に記載されています。
3.3 燃料の安定供給
自社での燃料製造と外部調達
- 自社での燃料製造:初期投資(チッパー等の機器)が必要ですが、長期的にはコスト削減につながる可能性があります。
- 外部調達: 初期投資は抑えられますが、燃料の品質や価格変動のリスクがあります。
燃料保管場所の確保:
- チップやペレットの保管には十分なスペースが必要です。
- 湿気対策や火災予防のための設備も考慮する必要があります。
3.4 メンテナンス体制
定期点検の頻度と費用:
- 一般的には1〜2回の定期点検が推奨されます。
- 費用の点検は、ボイラーの規模や複雑さによって異なりますが、年間数十万円程度を見る必要があります。
故障時の対応:
- 迅速な対応ができるよう、メーカーや専門業者との保守契約を結ぶことが推奨されます。
- バックアップボイラーの設置も検討する必要があります。
これらの点を十分に検討し、長期的な視点でバイオマスボイラーの導入を計画することが重要です。初期費用は高額になりますが、適切な運用と管理により、長期的には経済的・環境ような利点が得られる可能性があります。
4.経済性の評価
4.1 燃料費削減効果
従来の化石燃料との比較
木質バイオマスボイラーの燃料費は、化石燃料を使用する従来のボイラーと比較して大幅に削減できる可能性があります。
(例)
・重油ボイラー:約10円/kWh
・木質ボイチップラー:約5~7円/kWh
この場合、燃料費を30~50%程度削減できる可能性があります。
長期的なコスト推移の予測
木質バイオマスの燃料価格は比較的安定しており、化石燃料のような大きな価格変動リスクが少ないと言えます。
長期的には、化石燃料の価格上昇が予想される一方、木質バイオマス燃料は安定的に推移すると予測されています。
4.2 廃棄物処理費用の削減
産業廃棄物処理費用の削減額試算
木材加工業の場合、廃棄物処理費用の削減効果は大きいです。
(例)
・年間廃棄物量:1,000トン
・処理費用: 20,000円/トン
・年間処理費用: 2,000万円
バイオマスボイラー導入により、この廃棄物を燃料として利用できれば、年間2,000万円の処理コスト削減が可能です。
4.3 売電収入(発電システムの場合)
FIT制度の活用可能性
固定価格買取制度(FIT)を活用すれば、安定した売電収入が見込めます。
(例)
2021年度のバイオマス発電のFIT価格
一般木質バイオマス(2,000kW以上):24円/kWh
一般木質バイオマス(2,000kW未満):32円/kWh
試算例:
・発電容量: 500kW
・年間稼働時間: 7,000時間
・年間発電量: 3,500,000kWh
・FIT価格: 32円/kWh
・年間売電収入: 1億1,200万円
ただし、FIT制度は今後変更される可能性があるため、最新の情報を確認する必要があります。これらの経済性評価を総合的に考慮すると、木質バイオマスボイラーの導入は長期的に見て経済的なメリットが大きいと言えます。
特に、自社で発生する木質廃棄物を活用できる場合は、燃料費また、発電システムを導入してFIT制度を活用すれば、収益向上が可能です。
これらの理由により、木質廃棄のバイオマスエネルギーへの転換は、環境保全やエネルギー安定供給、地域経済活性化だけでなく、収益向上の面でも効果が期待できる取り組みとして注目されます。
バイオマスボイラー導入による燃料費削減効果の具体的な計算方法と費用シミュレーションの事例はこちら(バイオマスボイラー導入|燃料費削減効果の計算方法と費用シミュレーション )