ヘルスケアの市場拡大と事業への活用
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ヘルスケア市場の拡大|需要の増加と要因
ヘルスケアの市場は急速に成長しており、近年大きく拡大しています。特に、日本では高齢化社会の進展に伴い、医療や介護、健康管理に対する需要は増加し、各種サービスは益々注目されています。
例えば、経済産業省の推計によると、日本のヘルスケア市場は、2016年に約25兆円の規模でしたが、2025年には約33兆円に達すると予測されています。
市場が拡大している主な要因は、高齢化社会の進展、健康意識の高まり、技術革新とデジタルヘルスの進展、政府の政策支援が挙げられます。
ここでは、公開されているデータを参考に各需要の増加と要因など、特徴についてまとめました。
ヘルスケアの重要性についてはこちらの記事をご覧ください。
1.高齢化社会の進展
医療サービスの需要増加と介護市場の拡充
日本の総人口に占める65歳以上の割合は、2024年時点で約29%とされています。これはOECD諸国の中でも最も高い水準です(参考: 総務省統計局「人口推計」)。高齢者人口の増加に伴い、慢性疾患や介護の必要性が高まり、医療サービスや介護サービスの需要が高まっています。例えば、2022年の日本の医療費は約43兆円で、これはGDPの約8%を占めているといわれています(参考: 厚生労働省「医療費の動向」)。
これにより、病院やクリニックの数が増え、医療機器や薬品の市場も拡大します。また、高齢者の介護が必要になるため、介護施設や介護用品の需要が増加します。介護サービスの拡充は、介護ロボットやホームケア機器の市場成長にもつながっています。
2.健康意識の高まり
予防医療の需要増加とフィットネス市場の拡大
健康維持や病気予防に対する意識の高まりが、定期健康診断や予防接種、健康関連商品(サプリメントや栄養補助食品など)の市場拡大を促進しています。
健康維持のための運動やフィットネスへの関心が高まることで、ジムやフィットネス関連のサービス、器具の需要が増加しており、サービスもパーソナルトレーニングや女性専用、低価格のものなど多岐に渡って登場しており、市場の成長をさらに拡大させています。
- 健康や予防医療に対する意識の高まりにより、パーソナライズド医療やフィットネス関連市場が拡大しています。日本のフィットネス市場は2023年に約6,000億円に達し、年々成長しています(参考: 富士経済「フィットネス市場動向」)。
- 健康維持のための製品やサービスの需要が増加しており、例えば、サプリメント市場は2023年に約1兆円を超えました(参考: 富士経済「サプリメント市場動向」)。
3.技術革新とデジタルヘルスの進展
予防医療の需要増とフィットネス市場の拡大
デジタルヘルス市場は急成長しており、2024年には約1兆円規模に達すると予測されています(参考: 株式会社デジタルヘルス「デジタルヘルス市場予測」)。ウェアラブルデバイスやリモート診断技術の普及が進んでおり、特にCOVID-19パンデミック以降、テレメディスンやテレヘルスといわれる「遠隔治療」の利用が増加しています。この「遠隔治療」には、「遠隔診断」と「遠隔診察」がありますが、医師と患者が距離を隔てたところでインターネットなどの情報通信技術を用いて診療を行うことを指し、オンライン診療とも言われています。
- デジタルヘルス市場は急成長しており、2024年には約1兆円規模に達すると予測されています(参考: 株式会社デジタルヘルス「デジタルヘルス市場予測」)。
- ウェアラブルデバイスやリモート診断技術の普及が進んでおり、特にCOVID-19パンデミック以降、テレメディスンの利用が増加しています。テレメディスン市場は2024年には約500億円とされています(参考: 富士経済「テレメディスン市場動向」)。
4.政府の政策支援
医療・介護の予算増加と健康促進政策の推進
政府が医療や介護に対する予算を増やすことで、医療機関の設備投資や介護施設の整備が進みます。また、政策的な支援により、新しい医療技術や介護技術の導入が促進されます。健康寿命を延ばすための政策(例: 健康日本21)により、健康促進や予防活動が強化され、これに伴って健康関連市場の需要が増加します。政策が進むことで、企業の研究開発や新製品の投入が加速します。
- 政府は高齢者向けの医療や介護サービスの充実を図るために、多額の予算を投入しています。例えば、「介護保険制度」の予算は2023年度に約13兆円とされています(参考: 厚生労働省「介護保険制度」)。
- また、健康寿命を延ばすための政策として、「健康日本21」や「国民健康保険制度」の改善が進められています(参考: 厚生労働省「健康日本21」)。
ヘルスケアが注目されている理由
ヘルスケアが注目されている理由はいくつかありますが、特に次の視点は近年ますます着目されています。
1. 予防医療の重視
日本の医療制度は、世界的に見ても非常に高いレベルにありますが、高齢化社会において、医療費の増加は避けられません。医療制度の維持のためには、 予防医療を推進し、医療費が増えすぎないようにすることでサービスの持続性を高めることが必要です。
その他、医療費の削減や健康寿命の延伸、QOL(生活の質)の向上のためにも予防医療は重視されています。
医療費の削減:個々が病気を予防することで、治療にかかる費用を削減できます。特に糖尿病や高血圧、高脂血症などに代表される、徐々に発症して治療も経過も長期に及ぶ慢性疾患の予防では、長期的な医療費の増加を防ぐ効果があります。
健康寿命の延伸: 健康寿命は、厚生労働省において”病気などにかかることなく、健康で自立した生活を送ることができる期間”が指標とされています。予防医療は、病気になる前に健康を維持することを目指しています。これにより、日常生活に支障をきたすことなく健康に過ごせる期間(健康寿命)を延ばすことができます。
QOL(生活の質)の向上: QOLは、Quality Of Lifeを省略した言葉です。ひとりひとりの人生の内容の質や社会的にみた「生活の質」や「生命の質」のことを指し、自分らしい生活や充実した人生を送り、幸福を見出しているか、ということを尺度としてとらえる概念です。病気を予防することで、健康的な生活を過ごすことができ、質を向上させることができます。健康であることは、仕事や趣味、家族との時間をより充実させることにつながります。
予防医療に対する意識の高まりにより、健康診断や予防接種などのサービスへの需要が増えています。企業や自治体も従業員や住民の健康管理に力を入れており、ヘルスケアサービスの市場が拡大しています。
2. 在宅医療のニーズ
高齢者や慢性疾患を持つ患者の増加に伴い、在宅での医療や介護サービスの需要が高まっています。
高齢化が進む中では高齢者の増加や慢性疾患、長期的なケアが必要なケースが増えています。特に、通院や入院が難しい高齢者やその家族が、より身近で快適な環境で医療サービスを受けたいというニーズが高まっています。自宅での生活を希望する人は少なくないため、在宅医療の需要が増加しています。
また、自宅でのケアは、家庭環境での生活を維持できるため、患者の生活の質(QOL)を向上させると考えられています。家族との時間を過ごしながら治療を受けることができ、精神的な安心感や快適さが得られるため、在宅医療の需要が高まっています。
3. デジタルヘルスケアの進展
スマートフォンやウェアラブルデバイスを活用したデジタルヘルスケアが普及しています。これにより、個人が自分の健康状態をリアルタイムで管理できるようになり、健康管理アプリやオンライン診療の需要が急増しています。
事業へ活用されるヘルスケア
ヘルスケアの領域は、よりよく暮らすというウェルビーイングにとって、必要不可欠ですが、さらに事業への転換も増えています。
各々の事業において、取り組みが進むことで人々が自分自身や生活スタイルに合ったサービスや商品を取り入れることができます。
1. 予防医療・健康診断事業
企業や自治体が従業員や住民に対して健康診断を提供することが一般的です。予防医療に特化した健康管理媒体を運営する企業も少なくなく、定期健康診断や生活習慣病予防プログラムを提供しています。
また近年は、も増えており、例えば、デバイスを活用して 科学的に管理、分析、データに基づく健康管理や疾病予防が可能になるといわれています。
2. 在宅医療サービス
在宅での医療や介護サービスを提供する事業は、急速に成長しています。訪問看護や訪問介護、在宅リハビリテーションなどのサービスを全国で展開する企業もあり、多くの高齢者やその家族に利用しています。これにより、訪問看護や在宅リハビリテーションなどのサービスが拡充されています。
また、医療技術の進展も在宅医療サービスの拡大を促進しました。自宅での医療ケアが可能となったことにより、例えば、在宅で使用できる医療機器(血糖値モニターや酸素療法機器など)が発展し、遠隔診断やテレメディスンの利用が広がっています。これにより、医療スタッフが定期的に自宅訪問し、専門的なケアを提供することが容易になり、在宅医療の導入が進んでいます。
これらの広がりは、QOLの向上にも役立っています。多くの高齢者や慢性疾患を抱える患者が、病院よりも自宅で過ごすことを望んでいるといわれているためです。
3. デジタルヘルスケア事業
近年、デジタルヘルスケア事業は、急速に拡大しています。デジタルヘルスケアといった医療やヘルスケアにデジタル技術を活用するサービスです。
例えば、オンライン診療プラットフォームでは、患者が自宅から医師の診察を受けられるサービスを提供されています。また、スマートウォッチやスマートリングなどのウェアラブルデバイスを活用して、個々のデータを測定し、分析・評価するサービスや健康管理アプリも多数存在します。個人の健康データをリアルタイムで管理・分析することが可能です。
4. メディカルツーリズム
海外からの患者を受け入れるメディカルツーリズムも注目されています。日本の高度な医療技術やサービスは、外国人患者にとって魅力的です。外国人患者向けの医療サービスを提供する病院もあり、多くの海外からの患者が訪れています。
これらの要因から、ヘルスケア市場は今後も一層拡大することが予想されています。
特に、健康保持・増進に関わるサービスや、要介護者・高齢者向けの生活支援サービスの分野は需要が増加すると見込まれ注目されています。
参考情報
- 総務省統計局「人口推計」
- 厚生労働省「医療費の動向」
- 富士経済「フィットネス市場動向」
- 富士経済「サプリメント市場動向」
- 株式会社デジタルヘルス「デジタルヘルス市場予測」
- 富士経済「テレメディスン市場動向」
- 厚生労働省「介護保険制度」
- 厚生労働省「健康日本21」